今、世界の海や土壌、そして私たちの体内から検出され、静かに、しかし確実にその影響を広げている微小なプラスチックの破片があります。それが、マイクロプラスチックです。
直径5mm以下のこの微細なプラスチックは、環境と健康の両面で深刻な問題を引き起こしています。その現状と、私たちにできることを考えてみましょう。
マイクロプラスチックとは?
マイクロプラスチックは、発生源によって大きく2種類に分けられます。
- 一次マイクロプラスチック: 工業的に生産された、元々小さなプラスチック粒子。洗顔料のマイクロビーズや、衣類に使われる合成繊維などがこれに該当します。
- 二次マイクロプラスチック: ペットボトルやビニール袋などの大きなプラスチックごみが、紫外線や波の力によって細かく砕かれてできた破片です。現在、環境中に存在するマイクロプラスチックの多くが、この二次的なものです。

1. 深刻化する環境問題
マイクロプラスチックの主な問題は、その分解されにくさにあります。自然界で分解されるまでに数百年以上かかるとも言われ、環境中に蓄積し続けています。
生態系への影響
- 物理的な害: 海鳥や魚、貝などの生物が、エサと間違えてマイクロプラスチックを摂取しています。これにより、消化器官の閉塞や損傷、さらには偽の満腹感による栄養失調を引き起こします。
- 有害物質の運び屋: プラスチックは、残留性有機汚染物質(POPs)などの有害な化学物質を吸着しやすい性質を持っています。この有害物質を吸着したマイクロプラスチックが生物に摂取されると、体内で有害物質が溶け出し、生物濃縮を通じて食物連鎖の上位にいる生物へと蓄積されていきます。
- 食物連鎖の乱れ: マイクロプラスチックの摂取は、海洋生物の生殖能力の低下や発育への悪影響を示唆する研究もあり、海洋生態系のバランス全体を崩すリスクが懸念されています。

2. 見過ごせない健康問題
魚介類、水道水、塩、そして空気中からもマイクロプラスチックが検出されており、私たちは日常的にこれを摂取・吸入しています。近年の研究では、人の血液や肺、さらには胎盤や脳からもマイクロプラスチックが検出されたという報告があり、人体への影響が懸念されています。
体内での懸念される影響
人体への長期的な影響についてはまだ研究途上ですが、以下のリスクが指摘されています。
- 炎症反応: 体内に侵入したマイクロプラスチックは、異物として免疫細胞に認識され、慢性的な炎症を引き起こす可能性があります。
- 有害化学物質の曝露: プラスチック自体に含まれる添加剤や、吸着した有害化学物質が体内で溶け出すことで、内分泌かく乱作用(ホルモンバランスの乱れ)や、発がん性などの健康リスクが生じる可能性があります。
- 臓器への蓄積: 特に微小なナノサイズのプラスチック粒子は、消化管や肺から血流に入り込み、脳を含む全身の組織に蓄積する可能性が示唆されています。血管のプラークから検出された事例もあり、心血管イベントのリスク上昇との関連性を示唆する研究も出てきています。
- 腸内環境の乱れ: マイクロプラスチックが腸内細菌叢(マイクロバイオーム)のバランスを乱し、免疫系や代謝に悪影響を及ぼす可能性も懸念されています。

私たちにできる対策
この広範な問題に対し、私たち一人ひとりの行動が重要になります。
- プラスチックごみの削減(3Rの徹底):
- Reduce(減らす): 使い捨てプラスチック(レジ袋、ペットボトル、ストローなど)の使用を極力減らす。
- Reuse(再利用): マイボトルやマイバッグを積極的に使用する。
- Recycle(リサイクル): 正しく分別し、リサイクルを促す。
- プラスチック製品の正しい廃棄: ポイ捨てをしない、決められたルールに従ってごみを出すなど、プラスチックが環境中に流出するのを防ぐ行動を徹底しましょう。
- マイクロビーズ不使用製品の選択: 洗顔料や歯磨き粉を選ぶ際は、マイクロビーズが含まれていない製品を選びましょう。
- 環境問題への関心: マイクロプラスチック問題に関する最新の研究やニュースに関心を持ち続け、社会的な対策を支持していくことも大切です。
マイクロプラスチックは、私たち自身が生み出したごみがブーメランのように返ってきている「現代の脅威」とも言えます。未来の世代のためにも、この問題に正面から向き合い、今すぐ行動を変えていく必要があります。
あなたは日々の生活の中で、どのようなプラスチック削減の工夫をしていますか?

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