都会や地方の駅前を歩けば、必ず目にするのが「本格インド・ネパール料理」と書かれたカレー屋さん。
週末のランチ時でも満席になる店もあれば、平日の夜になってもほとんどお客さんがいないのに、なぜか長く営業を続けている店もあります。失礼ながら、「こんなにお客さんが少なくて、どうやって経営が成り立っているんだろう?」と疑問に感じたことはないでしょうか?
この「街のカレー屋さんの謎」を深掘りすると、私たちの食卓を支える国際的なビジネスの構造、そして一部で囁かれる「人身ビジネス」的な側面が見えてきます。
1. そもそも、彼らは「インド人」ではないことが多い
まず、このビジネスの構造を理解するための第一歩は、店員の国籍です。
「インドカレー」と銘打っていても、厨房やホールで働くスタッフの多くはネパール人であることが非常に多いのが実情です。
🇮🇳 ネパール人が「インドカレー屋」を営む背景
- 文化的な近さ: ネパール料理と北インド料理は共通する食材や調理法が多く、日本で広く受け入れられている「インドカレー」をネパール人が提供することは技術的に容易です。
- ビジネスチャンス: 日本で飲食店を始める際、ネパール人がコミュニティ内で情報や資金を共有し、低コストで店舗展開するビジネスモデルが確立しています。

2. お客さんが少なくても成立する「低コスト経営」の秘密
お客さんが少ないように見えても店が潰れない背景には、徹底的なコスト削減と、独自の資金繰りの仕組みがあります。
① 徹底された「人件費」の構造
最大の秘密は人件費です。
- 留学生・家族経営: 多くの店員が「留学ビザ」や「家族滞在ビザ」で来日している場合、彼らは法律で定められた範囲で働くことができます(例:週28時間以内)。彼らは、日本の正社員に比べて賃金が低く抑えられる傾向があります。
- 住居費の節約: 従業員同士が店の近くの住居を共同で借り上げ、極限まで住居費を節約しているケースが多く見られます。
② 見過ごされがちな「本当の収益源」
表面的な売上だけでは赤字に見えても、別の収益源や目的がある可能性が指摘されます。
- ビザの維持: 飲食店を経営しているという実績は、経営者やその親族が日本に在留するための「経営・管理ビザ」などを取得・更新する際の重要な根拠となります。ビジネス自体が、ビザを維持する「装置」として機能している側面があるかもしれません。
- 資金の国際送金: 日本で得た収入を本国へ送金することが目的であり、店舗の利益拡大よりも、最低限の運営コストを賄いつつ、本国へ資金を回すことを優先している構造も考えられます。

3. 「合法的な仕組み」に潜む人身ビジネス的な側面
ここからが最もデリケートな部分です。多くのネパール人労働者は、日本の労働法の下で合法的に働いています。しかし、その構造の一部が「人身ビジネス」的な要素を帯びている可能性が指摘されています。
🚨 借金による「縛り」の構造
- 高額な渡航費用と仲介手数料: 日本へ来る際、現地のエージェントや日本の斡旋業者に対し、高額な手数料や保証金を支払うために借金を負っているケースが散見されます。
- 劣悪な労働条件の受容: この借金を返済するために、留学生は長時間労働や最低賃金を下回る労働条件であっても受け入れざるを得ない状況に置かれます。
- 「留学」の建前: 留学ビザの取得のために学校へ通うことが義務付けられますが、学費を稼ぐため長時間労働を強いられ、結果として勉学がおろそかになり、ビザ更新ができず帰国せざるを得ない、という悪循環に陥ることもあります。
この構造は、法律上の「人身売買」には当たらないかもしれませんが、「借金による経済的・精神的な拘束」という点で、非常に人身ビジネス的な側面を含んでいると指摘されています。彼らは、日本での生活という夢と引き換えに、劣悪な労働環境から逃げられない状況に置かれている可能性があるのです。

4. まとめ:私たちは何を「買う」べきか
街のカレー屋さんが提供するのは、単に美味しいカレーだけではありません。その裏側には、日本の労働市場、ビザ制度、そして国際的な出稼ぎ労働という複雑な構造が隠されています。
私たちが「お客が少なくて謎だ」と感じる背景には、彼らが日本の常識とは異なる「低コスト・低収益・ビザ維持優先」という特殊なビジネスモデルで経営を維持している可能性が示唆されます。
彼らの提供する労働力とサービスが、その対価に見合っているのか。そして、その裏で不当な扱いを受けている労働者がいないか。私たちが普段利用するお店に対して、少しだけ構造的な視点を持つことが、この「街のカレー屋さんの謎」への、誠実な向き合い方ではないでしょうか。


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